アルパカの右にならえ

邦画と小説をこよなく愛する創作ヲタク。

【邦画ログ】彼らが本気で編むときは、/「ビール発明した人にノーベル賞あげたい」飯島奈美さんのご飯が食べたい

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生田斗真がすごかった。小皿への小指の添え方に生田斗真トランスジェンダーへの本気度を見る。
登場からいきなりの、コンビニおにぎりを一人、ダイニングテーブルに座って食べる主人公の背中だけでほぼほぼの背景を知り得てしまえるからすごい。また、この最初のパートで母親がミムラだって気がつかなかったよ。
小学5年生の時ってこんなんだったっけ……、と、自身の小学生時代を思い返しました。「こいつんち母子家庭だからよー!」ってからかってくるイジワルな男子に対して、「うるさいチビ」「黙れデブ」「ダッサ」と言い返す女子のお友達グループの感じが小学生っぽかった。そのお友達も、主人公のトモが本格的にからかわれるようになると距離を取っちゃうところもリアルというか。トモが橋の欄干に立って、川に向かって唾を垂らすシーンが好きです。唾を吐くんじゃなくてあくまで垂らす行為というのが、あーやったことあるある(笑)ってなった。
いえ、とか、はぁ、って中途半端にタメ口でなく、丁寧な言葉で相手と距離をつけるための相槌を打つ感じが、小学生中年くらいの子供と大人の狭間という感じ。生田斗真演じるリンコが働く介護施設の同僚、門脇麦ちゃんの存在感はさすが! 大好き。入居者のおじいさんに対しても粗雑な言葉で相手をするキャラクターも素敵。

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「前までは本と机しかなかった」というマキオの台詞から、リンコと共同生活をするようになってから増えたと思われる家具。このインテリアもすっごく素敵だった。


ある程度トランスジェンダーに理解のある人間関係が出来上がっているところに、今回トモがぽんと入ってきた感じが、映画を観ている側の気持ちと重なって良かったかも。それだけに、悪意を持った書き方がヘンに浮いちゃった感じがした。リンコが入院した時の看護師の理解があまりになさ過ぎて笑ってしまった。今時あそこまで偉そうな態度の看護師さんいなさそう。でもそこはとげとげしい気持ちにさせるのが目的だもんね。小池栄子のイヤなママ役はほんっとうにハマるよね……。沢尻エリカの息子を誘拐した時のクソみたいなママ役も最高だった記憶がある(ドラマの話)。

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トモ、リンコ、マキオの三人で初めて食卓を囲んだ時の夕食メニュー。ドラマ「カルテット」でも議論の種となった唐揚げに添えられるレモンがここにも……! この、海老とブロッコリーのニンニク炒めみたいなのが死ぬほど美味しそう。


リンコの母のキャラクターが最高。「例え子供だとしてもリンコを傷つける人は私が許さない」とトモに言い放つシーンとか、マキオの父親がもうなくなってて、母親も施設にいる状況を「でもやっぱりちょっとラッキーみたいな?」「だって私自分の子供が一番可愛いんだもーん」ってあっけらかんと笑うところとか、リンコがまだ普通の中学男子として悩んでいた頃、そうとう葛藤があったんだろうなぁと思える。この母に何度もリンコが助けられてきたんだなぁと想像できた。108個の煩悩チンコ(ネーミング…)の数数えてるとこ楽し過ぎ。「チンコの裏までちゃんと洗った?」「洗いましたよ、表も裏もごしごしと」「ちょっと誰この左曲がり、マキオ?」「それは太すぎだろ!」とか、小学生女子トモの前でまあまあな下ネタ喋ってふざけているところが好きです。
同じトランスジェンダーの悩みを持っているかもしれない、友達カイくんの未来がど絶望過ぎて可哀想だなぁ。「普通じゃない」と友達と会話することすら禁止する小池栄子ママだし、それを苦にオーバードーズまでしちゃうし、その行為を「罪深い」とまで言われ、絶望&絶&望だよほんと。カイくんが幸せに成長できることを願おう。

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リンコがトモのために用意してくれた朝ごはん。黄色い卵焼きが美味しそう。お皿のラップをめくって、卵焼きを手で掴んで食べながら歩くトモの仕草も好きだった。卵焼きにマカロニサラダにほうれん草のおひたしにご飯とお汁…最高の朝ごはん!


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トモが「こんな可愛いお弁当初めてだったからもったいなくて食べられなかった」と、タイミングを逃して痛んでしまったお弁当を食べて、結局お腹壊しちゃう展開がかわいかった。「可愛くて可愛くて仕方がない」と言うリンコの気持ちを考えて泣いた。タコさんウインナーを空に掲げて微笑むトモも素敵。


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三人がでっかいサングラスをかけて海辺で編み物するシーン。ここにも瓶ビールが。男から女に変わる手術で、切ったチンコはどうなるのか、という純粋な質問をするトモ。その衝撃の答えにショックを受けた顔とセリフも可愛かった。


戸籍を変え、マキオときちんと夫婦として結婚して、トモを養子として迎えられないかと話す二人のシーンがよかった。立ち上がって抱き締める仕草も、さりげないキスシーンも、最初の方こそ違和感があったものの、もうこの辺まで来ると生田斗真がただの女性にしか見えなくなっているから、自然と受け入れてしまう。役者ってすごいんだな……と絶句してしまった。ミムラ母がクソ中のクソ中のクズ女だった。良い人とか報われない役が多かったからこういう人に迷惑しかかけないクズ役とミムラも良いよね。人間として誰よりも下等生物役のミムラ母は最高だった。結局、トモは母親を捨てる程大人ではなかったけれど、「今日は一人で帰って」と母親に言い放つトモの精神的強さには涙が出た……。誰だって誰かに頭を撫でてもらいたいし抱き締められたいよねー。

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赤ウインナーでできたこいのぼり! 早朝、マンションのベランダから見えるこいのぼりを見つめるリンコのシーンもあった。


アイテムとかひとつひとつのシーンに印象的なものが多かった。いろんな場面で出てくる、リンコとマキオが好んで飲む瓶ビール。糸電話での仲直り。夕方のラムネサイダーの瓶の中のビー玉。赤ウインナーでできたこいのぼり。フードスタイリストの飯島奈美さんが監修しているだけあって、食べ物のシーンはみんな美味しそうで本当にお腹が空いた……。おかずの並んだ食卓やお弁当の蓋を開けた時のトモの明るくなる表情がすごく可愛かった。しじみの醤油漬けと切り干し大根とイカの塩辛はきっと、お母さんと一緒に食べた記憶があるんだよね。
自宅に帰って行ったトモが忘れて置いていったハンカチを握り締めて泣くリンコがせつなかったし、彼女を後ろからきつく抱き締めるマキオもよかった。もうすでにリンコが女性にしか見えてない。初登場時の違和感はすでにない。最後、トモが戻った家が綺麗に片付けられていて、母とトモの生活が少しでも前向きに変わることを示唆していてほっとした。マフラーと見せかけてのおっぱい。静かなエンドロールが印象的だった。