アルパカの右にならえ

邦画と小説をこよなく愛する創作ヲタク。

【邦画ログ】「何者」朝井リョウ/大根役者でいいとして

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朝井リョウ原作の映画「何者」は観たら自意識が死ぬよ。と聞いていました。
死ぬよ? 一人残らずもれなく死ぬよ? 例外ないよ全員死ぬよ? と聞いていました。
死にました。

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原作も読んでいました。
シーンひとつひとつが、というより、一分一秒すべてが痛い。つらい。もう観るのやめたい。
最初に拓人と先輩が話してる時のモブ女のセリフ「演劇?でしたっけぇ」の「演劇?」の語尾上げのウザさが最高。その黒縁伊達眼鏡ボキボキに粉砕してやろうかって思うよね。語尾を上げんじゃねえ。語尾を。二階堂ふみちゃん演じる理香の初っ端の印象も良い。明らかにプライド高いだろうなっていう話し方にエピソードに、「意識高い系」に日々辟易としてる我々は、もう腹の底がムズムズして仕方なくなるのです。「そんなことないよ~」って絶対否定しないんだよね、その場しのぎの社交辞令も「ニコッ」て受け止めやがる。「ニコッ」じゃねえよ、と言いたい。後半、理香のセリフにも「演劇?」が出てきて、良かった。

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拓人の裏アカウントがばれていることが発覚した後半(拓人VS理香というド修羅場)からの、今までのシーンの振り返りは「もうやめて! 拓人のライフポイントはゼロよ!!」と叫びたくなりました。つらい、心がとても痛い。三浦大輔さんの舞台「恋の渦」の時のような、(なんて言うんだろう? よく分からないけれど)室内を箱型にして、真横から見たかたち、まさに演劇の舞台になっていて、その見せ方がすっごく面白かったです。演劇の舞台、ステージの真ん中で大勢の観客から拍手を受ける場面。顔を上げた拓人の目に瑞希の姿が映ることで、瑞希も拓人の裏アカウントをチェックしていたことが分かるシーンが好きです。まさに拓人劇場! 拓人オンステージ!

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鳴り止まない拍手には、スマホフリック入力音(チキチキチキって音)が重なっていて、イヤだわ……! ってゾワッとしました。
また、このフリック入力音は機種の世代によって変わっていくけれど、現に今のiPhoneから一つ古い世代の入力音だったように思う。「何者」が直木賞を受賞した際、朝井リョウが自身のラジオで、自分の小説について「内容にツイッターとか出てくるし、(選考者に)最後まで読んでもらえないんじゃないかと思ってた」と述べていました。今まさに若者の自己表現の場として当たり前に普及しているツールを作品の中に出すことで、バージョンなどが理由で作品に「古さ」「世代感」が出てしまうのも、現代の直木賞作家が描いた映画作品だということを強調しているなぁ思いました。


「光太郎は、自分の人生の中にドラマを見つけて、そのドラマの主人公になれるんだよ。いちいち現実のことを考えなくちゃいけない私なんかが邪魔しちゃいけないって思ったの」

瑞希が光太郎を好きな気持ちを吐露したこのセリフを聞いたら、もっとこんな風なきちんとした気持ちで他人のことを想いたい、と落ち込みました。

「一分間では話し切れません」からのエンドロールが清々しかったです。ちなみに、光太郎が会いたい人=翻訳家を夢見て海外に行った女の子、の「何者」のスピンオフ短編「水曜日の南階段はきれい」は、「何様」という単行本に入っています。
朝井リョウのお話の中で一番好きな短編です。


何者

何者

何様

何様