アルパカの右にならえ

邦画と小説をこよなく愛する創作ヲタク。

【邦画ログ】「ハケンアニメ!」

ハケンアニメ!

ハケンアニメ!

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映画「ハケンアニメ!」
なにかしらの創作物に関わる人にはぜったい刺さる。直接生み出さない人にも刺さる、王道のお仕事ムービー。あまり人が入っている印象はないけど、観た人の感想は軒並みアツくて気になって、仕事終わりに思いつきで観てきた。

最初のワンカット長回しから大好きな予感がしてた。
吉岡里帆ちゃんの、口下手でオタクっぽい一息で喋り倒す演技や、人前で喋り慣れてないおどおどした話し方が最高。若くて可愛い主人公が監督に抜擢されたことに対して、周囲からの「どうせ代打」「次はない」というプレッシャーがあって、容姿を全面的に出すことでアニメの認知度を広めていくチーフプロデューサーのやり方に最初は反発するんだけど、擁護するようで士気を下げる周囲の仲間からの「可哀想」「食いつぶされないようにね」という助言に対して、「あの人の悪口を言っていいのは、私だけです。一番振り回されてるのも私だし、その逆に一番迷惑をかけているのも私です。だけど、その私が信頼しているんだから。全然可哀想じゃない!」と感情をぶちかますシーンがすごくよかった。本人なりに飲み込んでいることに対して、周囲がいつまでも「可哀想」という呪いをかけるのって大嫌い。
「息抜きなんて死んでもできない。書くことの壁は書くことでしか超えられない。どれだけ飽きても、嫌でも、派手さがなくても、地道に机に向かうことでしか進まないんだよ」と、ゼロから命を生み出す苦悩を吐露す、過去にカリスマと言われこちらもプレッシャーに潰されそうな王子監督のシーンもよかった。

柄本佑さん演じるチーフプロデューサーの行城さんは、嫌いな人いるわけないじゃん、100人が100人好きに決まってるじゃん! という役柄だった。「あなたは代打ではありません。最初から4番です」ってセリフに痺れた。あとは、夕方5時放送アニメの最終回で「主人公殺しちゃダメ?」と提案する王子監督に対してチーフプロデューサー有科の言った、「殺していいですよ。皆殺しにしてください。私に局と戦えるだけの武器(納得させられる最終回の絵コンテ)をください」というセリフも好き。
この自由奔放で才能に満ち溢れた王子監督と、それに振り回されつつも上手く操縦する有科の仕事上の確固たる信頼関係・相棒っぽさがよかっただけに、ラストの「結婚してあげてもいいけど」には冷めたなぁ。たぶん、原作ではきちんと心情も細かく描かれてて伏線もちゃんとあるんだろうけど。原作を読んでいたら受け取り方も変わっていたはず。

「この世の中は繊細さのないところだよ。だけど、それでもごくたまに、君を助けてくれたり、わかってくれる人はいる。わかってくれてる気がするものを、観ることもある」というセリフもよかった。世界に自分一人ぼっちかもしれないという夜があって、そういう時に、こういう世界もあるかもしれない、と誰かに言われるのはかけがえのない救いだと思う。ラスト、ベランダから外を見下ろし、友達とかけていく太陽くんを眺める主人公の涙と、顔を上げて部屋に戻るそれだけのシーンがラストカットなのは本当に爽やかで、私の大好きな大好きな邦画だった。
ジェニーハイのエンディング曲がよすぎて帰り道で速攻買う。エンドロール後の数秒の映像も憎い。かなりレベルの高い邦画なだけに、上映期間の短さが残念。この映画には行城さんのようなプロデューサーがついていなかったんだな。