アルパカの右にならえ

邦画と小説をこよなく愛する創作ヲタク。

あの夜を覚えてる


オールナイトニッポン55周年記念公演「あの夜を覚えてる」の生配信演劇? っていうのかな、の2日間公演、両方チケット取って観た。初日だけでもいいかなと思っていたけれど、千秋楽も見てよかった。カット割りやセリフも大幅に変わっていて楽しかった。
初めて買ったコンポでチューニングを合わせて聞いたラジオ番組。メールを送って読まれたりとか、最新曲を覚えるのはいつもラジオからだったな~って記憶とか、眠る前に布団にくるまりながら聞いたあの夜の気持ちを思い出した。千葉くんの最後の、リスナーからのリアクションメールを読む時の泣く演技が、初日より格段にパワーアップしていて衝撃だった。

【邦画ログ】「ちょっと思い出しただけ」

松井大吾がまじめにシンプルに恋愛映画を作ったらこんなエモさの交通渋滞みたいな作品ができるのかって。ネタバレなしの映画の感想を映画を見る前に探していた私「感想が『エモい』ねぇ、ふぅ〜ん」、映画を見終わった直後の私「エモエモのエモや〜〜!!」

ニューヨーク屋敷がいい!とみんな言うので、へぇ〜そうなんだって身構えてみたけれど、いい。確かに良すぎる。コンパを抜けた電柱の影で煙草の火を分けながら、「芸能人と付き合いたいわぁ〜!」とぼやくシーン。LINEを交換して「夏、始まりましたわ……」「うぅわっ…(笑)おつかれさまです…」のやりとりが最高だった。アドリブらしくてより最高。時間で言うとほんの少しの出演なんだけど、私がニューヨーク屋敷さんのファンだったらその少しの時間のために2回は絶対見に行く。それぐらいとにかくめっちゃニューヨーク屋敷がいい役すぎる。

クリープハイプ尾崎世界観が思ったより尾崎世界観伊藤沙莉が演じる葉みたいな女の子ってほんといるいる。どこにでもいるなんでもないような子なのに、初対面からノリが良くて人付き合いもそこそこ、タクシー運転手だから人との会話に慣れているっていう職業柄でもあるのかな。
松井大吾の映画はだいたい「この俳優さんちょっと好きだなー」って人が一人二人はいるんだけど、実際観終わるとまったく身構えてなかった別の役者さんに落ちて帰ってくること多し。

ずっと同じ日の数年分、その日は誕生日だからケーキの登場回数が多い。一緒に食べられなかった激励のケーキ。深夜映画を見ながらふたりでつついたひとつのケーキ。バー「とまり木」のマスターたちが作る生クリームびたびたのケーキ。
地獄の合コン会場。忍び込んだ水族館でふたりきりのナイトオンザプラネット。夜にしがみついて朝で溶かしたタイトルバック。綺麗な色のあの朝焼けは「くれなずめ」と繋がっているみたいだった。松井大吾監督は相変わらず、どうして私があんな風に思って、あんな風に泣いたことを知ってるんだろう。誰にも話したことがないのに。という気持ちにさせてくれる。

苺のショートケーキが絶対食べたくなる、明日食べる。

【邦画ログ】「ハケンアニメ!」

ハケンアニメ!

ハケンアニメ!

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映画「ハケンアニメ!」
なにかしらの創作物に関わる人にはぜったい刺さる。直接生み出さない人にも刺さる、王道のお仕事ムービー。あまり人が入っている印象はないけど、観た人の感想は軒並みアツくて気になって、仕事終わりに思いつきで観てきた。

最初のワンカット長回しから大好きな予感がしてた。
吉岡里帆ちゃんの、口下手でオタクっぽい一息で喋り倒す演技や、人前で喋り慣れてないおどおどした話し方が最高。若くて可愛い主人公が監督に抜擢されたことに対して、周囲からの「どうせ代打」「次はない」というプレッシャーがあって、容姿を全面的に出すことでアニメの認知度を広めていくチーフプロデューサーのやり方に最初は反発するんだけど、擁護するようで士気を下げる周囲の仲間からの「可哀想」「食いつぶされないようにね」という助言に対して、「あの人の悪口を言っていいのは、私だけです。一番振り回されてるのも私だし、その逆に一番迷惑をかけているのも私です。だけど、その私が信頼しているんだから。全然可哀想じゃない!」と感情をぶちかますシーンがすごくよかった。本人なりに飲み込んでいることに対して、周囲がいつまでも「可哀想」という呪いをかけるのって大嫌い。
「息抜きなんて死んでもできない。書くことの壁は書くことでしか超えられない。どれだけ飽きても、嫌でも、派手さがなくても、地道に机に向かうことでしか進まないんだよ」と、ゼロから命を生み出す苦悩を吐露す、過去にカリスマと言われこちらもプレッシャーに潰されそうな王子監督のシーンもよかった。

柄本佑さん演じるチーフプロデューサーの行城さんは、嫌いな人いるわけないじゃん、100人が100人好きに決まってるじゃん! という役柄だった。「あなたは代打ではありません。最初から4番です」ってセリフに痺れた。あとは、夕方5時放送アニメの最終回で「主人公殺しちゃダメ?」と提案する王子監督に対してチーフプロデューサー有科の言った、「殺していいですよ。皆殺しにしてください。私に局と戦えるだけの武器(納得させられる最終回の絵コンテ)をください」というセリフも好き。
この自由奔放で才能に満ち溢れた王子監督と、それに振り回されつつも上手く操縦する有科の仕事上の確固たる信頼関係・相棒っぽさがよかっただけに、ラストの「結婚してあげてもいいけど」には冷めたなぁ。たぶん、原作ではきちんと心情も細かく描かれてて伏線もちゃんとあるんだろうけど。原作を読んでいたら受け取り方も変わっていたはず。

「この世の中は繊細さのないところだよ。だけど、それでもごくたまに、君を助けてくれたり、わかってくれる人はいる。わかってくれてる気がするものを、観ることもある」というセリフもよかった。世界に自分一人ぼっちかもしれないという夜があって、そういう時に、こういう世界もあるかもしれない、と誰かに言われるのはかけがえのない救いだと思う。ラスト、ベランダから外を見下ろし、友達とかけていく太陽くんを眺める主人公の涙と、顔を上げて部屋に戻るそれだけのシーンがラストカットなのは本当に爽やかで、私の大好きな大好きな邦画だった。
ジェニーハイのエンディング曲がよすぎて帰り道で速攻買う。エンドロール後の数秒の映像も憎い。かなりレベルの高い邦画なだけに、上映期間の短さが残念。この映画には行城さんのようなプロデューサーがついていなかったんだな。

【邦画ログ】「くれなずめ」

松井大吾監督の「くれなずめ」を観ました。
この映画で藤原季節さんという俳優を知りました。何回忌かの帰りの、雪の日の駅のシーンがめちゃくちゃよかったです。落ちた。「お菓子貰いに来たわけじゃないのに、お菓子貰いに来たみたいになっちゃって」のシーンの涙は、きっとネジには見えていないんだろうな。寂しさを共有したくて、だけど言葉が見つからないから他愛もない言葉を放ってしまう、こうして一つのシーンにされるとぎゅーっときてしまう。松井大吾の脚本は、誰にも言っていないはずのこの気持ちをどうしてこの人は知っているんだろうか、と思う。そういうセリフを書く人。
胴上げして召させようとするシーン、暮れなずんでる五人の間から斜めににょきっと出てきて挟まるよしお、三人で眠る前に話す「好きな人できた?」の夜、おでんの屋台でぎゅっとなった二人とか、すべてのシーンのパワーがとてつもない。ウルフルズの「それが答えだ」が大好きで(この曲のイントロは最高)、余興のダンスシーンはかなりグッときた。アウトロでジャニーズみたいにスン…ッてしたラスト締めるのやめろ(笑)と笑いました。心臓のシーンが始まったら「さっきまでの涙返せよ」とスッとなりましたが、それも含めてすべてが素晴らしかった。タイトルバックも、ずるすぎる。

男子版の「くれなずめ」、女子版の「私たちのハァハァ」だな! と思う。「くれなずめ」もう一度見たいんだけど、そろそろ上映が終わりそうで上映が朝早くしかなくてどうしよう。

【邦画ログ】「空白」

邦画「空白」を観ました。
常に誰かが怒っていて、誰かが謝っている映画だった。間違いなくここ最近の邦画の中でナンバーワンだと思う。そんなに数観ていないけれど。
冒頭の車の事故のシーンが、もう映画史に残る悪趣味さ・残忍なえげつなさだと思う。描写としては、ダイレクトにグロいのではなく、想像力に殺されるタイプ。この冒頭のシーンのためだけに観てよかったと思う。それだけでPG12に納得。こんなに悪趣味なタイトルバックを私は知らない。なにを見てどう生きてきたらここまで最悪なオープニングが撮れるのだろうとゾッとした。タイトルの赤が忘れられない。パンフレットの表紙と裏表紙の景色に気づいた時もう一度ゾッとした。
事故の加害者の親と被害者の父親が対峙する葬儀のシーンではグチャグチャに泣いた。圧巻だった。母親のあの言葉を聞いて打ちのめされてしまった。藤原季節はすっごいすっごいいい役で最高だった、ほんと。マスコミの人間を追い払うところでグッときた。描いた絵の感想を話すシーンも好き。なんかもうドッと疲れすぎて、映画館の帰りのエレベーターで乗り合わせた同じ映画を観た人たち、無言。

【邦画ログ】「世界は今日から君のもの」

世界は今日から君のもの [Blu-ray]

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  • 発売日: 2018/05/02
  • メディア: Blu-ray

父親と二人の朝ごはん。ただのトーストに牛乳だけの簡素な朝食を、斜向かいの席で向かい合って食べる習慣なのが和む。

ナチュラルで優しい毒を吐く母親役のYOUが素晴らしかった。「最初から上手くいくわけないと思った。あなたには特別な才能なんてないし、身の程を弁えて生きるべきなのよ。いつだってお母さんはあなたのことを考えてるのよ。あなたはお母さんがいないと駄目なんだから」と、無理やり詰めるわけでもなくどこまでも優しく、だけど相手に選択肢を与えない、甘やかすタイプの毒親を演じていて凄いと思った。ストーリーが展開するきっかけなどエピソードとエピソードの繋がりが自然。登場人物の脇役と役者さんがみんないい。もっと間延びしたいわゆる「だるっとした邦画らしい邦画」かと思ったけど、ドラマの脚本を多く書いている方だからか、短く軽い切り替えが多く見やすい。比留川游さんという女優さんを初めて見ましたが、イイ女風の演技頑張ってるけどとにかく過剰で演技経験も少ないのかただの下手くそなのですごく寒い印象。彼女が喋ると空気が凍る。演技力の皆無なモデルさんはモデルさんだけやっておいて欲しいです。比留川游さん、名前を覚えました。彼女の出演している映画やドラマは二度と観たくないです。
落書き程度のスケッチを見て「これあんたが書いたの?すごいよ!知り合いにデザイン会社の社長がいるから見せに行こう!」って展開も寒い。
引きこもりでニートだけど実は絵が抜群に上手い主人公の能力が認められてトントン拍子に引きこもり脱却〜みたいな謎のストーリー。

【邦画ログ】「日日是好日」/「センセイ君主」

日日是好日 豪華版 [Blu-ray]

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  • 発売日: 2019/06/04
  • メディア: Blu-ray

お茶の立て方を習うシーン、人の動作や所作を観察するのが好きなので超楽しい時間。樹木希林の喋り方がふくよかで穏やかで癒される。敷居と畳のヘリは絶対に踏まないようにという注意は他より厳しめなのが可愛かった。動作の一つ一つに関して「どうして〜するんですか?」といちいち意味を求める、黒木華ちゃんと多部ちゃんが可愛いすぎる。
黒木華ちゃんの横顔が映るシーンが多く、彼女の鼻筋から顎にかけてのラインや、素朴でありながら凛とした表情や、後れ毛の雰囲気が魅力的。お茶を習いながら成長していく過程や人間関係が美しい。結婚寸前まで行った恋人との破局やなかなか自分の思う通りの職につけないエピソードがモノローグで済まされてしまうのが少し残念だったけれど、茶道のシーンをすごく丁寧に描いているので仕方ないのかなと思う。樹木希林さんの喋り方や所作を観ているだけで心がけて落ち着く。
お茶のシーンではきっちりと背筋を伸ばしているのに、実家に帰って立ったまま缶ビールを飲んだりお父さんの食べているおかずを横からもらう行儀の悪さが好き。多部未華子ちゃんと黒木華ちゃんの会話が女同士のいとこ役が好きだな。自分には異性のいとこしかいないので、女同士で仲の良い親族が羨ましく思えた。樹木希林演じるお茶の先生が、縁側で珈琲を淹れているシーンがすごく印象的で素敵だった。

センセイ君主 DVD通常版

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  • 発売日: 2019/01/30
  • メディア: DVD


竹内涼真くんの魅力がたっぷり。竹内涼真を楽しむための2時間弱。
原作の表情豊かな描写を忠実に再現しようとしてるんだろうな〜という感じ。浜辺美波ちゃんのテンションと顔芸が最初はきつく、喋り方がうざい。ふとした一言の台詞ははっとしたりきゅんとしたりするから、たぶんわざと早口でまくしたてるキャラクターより自然な演技を求められる映画の方がいいのかな?コメディは演技力の高さが求められるから難しいね。
二十代の高校教師の一人暮らししてる部屋がデザイナーズマンションばりに広く家賃いくらだよな部屋で笑った。こういうリアリティーのない設定を見ると激醒めである。就職して何年目か知らないけれどいくら公務員といえど現実味なさすぎて「先に生まれただけの僕」の鳴海先生の住んでる部屋のリアルさが恋しくなる。こういうところに「少女漫画原作を今人気の若手俳優の顔だけで実写化した映画」が前面に出てる。ジュディマリを知らないさまるんと先生の世代のギャップが良い。さまるんのおうちが一昔前の少女漫画の一軒家でもうなんか、なんかだった。
連発されるギャグなど、合唱コンクールの練習シーンのカットとか取ってつけたような青春学園っぽさの演出が割りと寒い。浜辺美波ちゃん以外のクラスメイト役の演技が自然でかわいい。

竹内涼真のはいはいって態度の自然な頭ぽんぽんは最高だったので拍手したい。プラパッドを渡される男友達が好き。竹内涼真が下手くそなピアノを弾くシーン、険悪な空気になりそうだったのが絶妙な雰囲気に持ち直す感じが自然で好き。
合唱コンクールで泣きながら歌う浜辺美波ちゃんを心配してチラ見する先生は良かった。小ネタのチョイスがいちいち90年代(桜木花道とかジュディマリとか大塚愛さくらんぼとか今の高校生は選ばないでしょ)なのが、作り手の意見が反映されててウムムとなった。「オオカミ少女と黒王子」で女子高生の二階堂ふみちゃんが小沢健二の「今夜はブギーバック」を歌いながら歩くシーンとか、ハマるものはめちゃくちゃ良いんだけど、ハマらないのは興醒めの極み。
ラスト15分が素晴らしく良いので、今までのさまるんのウィッグの不自然さは高校卒業時の浜辺美波ちゃんの美しさのためだったのだ……。と思うことにした。私の中で邦画は「エンディングが良ければ全てよし」なので、ほっぺにたいへんよくできましたスタンプを押したセンセイのはにかみ笑顔とさまるんの不服そうな表情、からの撮影風景の様子を織り交ぜるエンドロールは反則でした。前半の浜辺美波ちゃんの演技のうざさに耐えられるなら最高のエンディングのために観てもらいたい。TWICEの曲がいい。